10thフォーラム
特定非営利活動法人SCOPは設立10周年を迎えました。この機会にシンクタンクとしてのSCOPの役割を再確認するとともに、関係者の方々と地域の現状や課題を共有し、希望ある未来に向けた一歩を踏み出したいと願い、記念フォーラムを開催しました。当日は多くの行政関係者のみなさまにご参加いただき、SCOPの役割や信州の未来像について議論を深めることができました。
日 時: 平成25年1月14日(祝) 13:30~18:30
場 所: フリーダムホール燦祥館
参加者: 行政関係者など約50名

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SCOP Misson Statement  ミッションステートメント

「これからの10年に向けたミッションステートメント」  

特定非営利活動法人SCOP 理事長 鷲見 真一


SCOPでは10周年を一つの区切りと考え、これまでの活動を振り返りながら成果と課題について総括し、今後、わたしたちの目指す方向性や役割、使命をミッションステートメントとして発表しました。

 

ミッションステートメント  

 ■発表要旨

  ・これまでの歩み

  ・10年間の成果と見えてきた課題

  ・ミッションステートメント




Memorial Speech  記念講演 

「人口・経済から予測する信州の未来像」  

日本総合研究所調査部主席研究員地域エコノミスト 藻谷 浩介 氏


年間400回を越える講演をこなす人気の地域エコノミスト藻谷浩介氏による記念講演。SCOPの基本姿勢のひとつである「根拠志向」にもご賛同いただきながら、本講演でも「人口・経済から予測する信州の未来像」と題して、産業や人口などの数字という根拠をベースに、「シュリンクする社会」の背景と実態を読み解いていただきました。


※シュリンクする社会=これから少子高齢化が加速し、人口が減少する日本社会は「シュリンク(縮小)する」と考えられます。人口減少下でも住民の生活の質を維持・向上していくための地域経営手法として、「賢い縮小」を意味する「スマートシュリンク」という概念が提唱されています。


講演要旨


◆経済の問題は実は人口問題

日本の産業が衰退したと言われるが、全工場の工場出荷額の合計はほぼ横ばいに推移しており、日本の産業は決して衰退してはいない。雇用が減っているためにむしろ付加価値生産性(従業員一人当たりのGDP)は増加している。そして、雇用が減っているのは生産年齢人口が減少に転じているからである。

この10年間で日本の生産年齢人口は800万人減少、年率1%のスピードで減っているのに対し、65歳以上は31%も増えている。また、14歳以下の子供は過去30年ですでに4割も減っており、少子化のスピードはきわめて早い。こうした人口構造の変化が雇用を減少させ、地域の経済状態に大きな影響を及ぼしている。

◆シュリンク社会を先取りし、成功している信州

一方、信州のこの10年の65歳以上人口は13%増にとどまっており、すでに十分高齢化が進んでいる。また、長野県男性の平均寿命は日本一でありながら、長野県の老人医療費は最も低い。つまり、信州は人口減少社会という日本の未来像を先取りし、生き残りの道筋を示しているといえる。

日本が人口減少社会において実現すべきなのは、若い働き手の人件費を上げ、一人当たりのGDPを伸ばすこと。そうすれば、若者の生活が安定し、消費が活発となり、ひいては高齢者を支えることにつながる。スイスやオーストリアは人口が少なく、内需が小さくても、高い人件費を払うことで質のよい内需の維持に成功している例である。


◆信州の地域ブランドで日本のスイスをめざす

かつて日本の腕時計は世界市場を制覇したが、その後の40年で地域ブランド化に失敗してしまった。現在、日本の腕時計の売上が1,700億円なのに対し、スイスの腕時計は輸出だけで1兆7千億円と10倍の差がある。また、一人当たりGDPもスイスとの差は1.9倍に広がっている。

信州も地域ブランドを育て、1年に1%ずつ一人当たりの人件費を上げていけば、スイスのような強い国際競争力を持つことができるだろう。50年かけて年1%ずつ人件費を上げることは、決して不可能な目標ではない。不安を口にしながら、何も手を打たないのではなく、そのためにできることを「Cool Head, Warm Heart」で考え、ぜひ信州には日本のスイスを実現してもらいたい。


記念講演


藻谷氏<講師プロフィール>

山口県生まれの48歳。平成合併前3,200市町村の99.9%、海外59ヶ国をほぼ私費で訪問し、地域特性を多面的に把握。東大法学部卒業、日本開発銀行入行、米国コロンビア大学ビジネススクール留学、日本経済研究所出向などを経ながら、2000年頃より地域振興の各分野で精力的に研究・著作・講演を行う。2012年より現職。公職やテレビ出演多数。近著「デフレの正体」(角川Oneテーマ21)は45万部のベストセラーとなった。



Panel Discussion  パネルディスカッション

「希望ある未来をつくるための人づくりとは?」  

<パネリスト>
塩尻副市長 米窪 健一朗 氏
松本市商工観光部長 平尾 勇 氏
信州大学経済学部教授 沼尾 史久 氏
日本総合研究所調査部主席研究員地域エコノミスト 藻谷 浩介 氏
コーディネーター:特定非営利活動法人SCOP主席研究員 北村 大治


【議論の背景と主な論点】

今、地方では少子高齢化、地域産業の衰退に伴う人口・人材流出やコミュニティの弱体化等により、これまで地域を形づくってきた様々な構造体が崩壊しつつあります。このような状況の中で、活力のある長野県を取り戻すために、新たな「ローカルガバナンス」(=市民・企業・行政などの各セクターの参画による社会運営への意思決定とそれに基づいた具体的な行動)の確立が求められています。

パネルディスカッションでは、「ローカルガバナンスの確立において各セクターがどんな役割を担うべきか、また、その達成のために求められる人材育成」を主な論点に据え、行政経営の視点(米窪氏)、安心して地域で暮らせる基盤としての地域産業政策の視点(平尾氏)、自治行政学の観点及び地域人材を輩出する教育機関の視点(沼尾氏)、他地域と比較の上で長野県の地域経営ではどこに力点をおくかという視点(藻谷氏)、そして新しい組織形態である社会企業的な視点(北村)といった各セクター視点から議論を行ないました。


パネルディスカッション1 パネルディスカッション2

【発言要旨】

米窪氏

塩尻市においても少子高齢化が顕著である。今後は高齢者サービスに対する需要が増えていくと試算し、相当な危機感を持って行政運営に当たっている。こうした状況を踏まえるとローカルガバナンスという考え方は必要だと思う。住民ニーズのすべてに行政が応える時代は終わり、これからの行政の役割は、政策の合理化、選択と集中の方向性を示すこと。また、市民が地域運営に関わる直接的な行動を起こせるようにするためのインキュベーターであり、プロデューサーであるべき。


平尾氏

基本的な時代認識は米窪氏と同じであり、このような時代の行政には、まず時代の課題を的確に把握し、それに対処するための政策立案、継続的な実施能力が必要である。行政職員には問題発見力や提案力、コミュニケーション力、外部に対するネットワーク力など多くの能力が求められ、何より使命感のある行政職員が必要だ。また、地域の各セクターの役割を明確化し、当事者性を引き出しながら地域マネジメントを進めていくことも大切である。


沼尾氏

行政と違い、大学は政治から独立しているため、地域に対する長期的なビジョンを持ちやすい立場にある。こうした観点で大学は地域のガバナンスに関わっていくことが可能だと思う。ただ、ローカルガバナンスの概念はわかりにくいため、明確な定義が必要ではないか。プロセスにおいて各セクターが集まって検討していくのは当然だが、決定権者が曖昧になってしまってはガバナンスは成立しないと思われる。覚悟と責任を持って地域の政策を決める決定権者が誰であるかを明確にすることが重要である。


藻谷氏

特に長野県では地域のガバナンスは進みつつあると思う。長野県民は自立心が強く、自分のできることは自分でやっていこうという意識が強いと感じている。ただ、皆がまじめに自律的に自治を進めている結果、その一方で誰も手をつけない政策領域が広がりつつあるようにも感じている。つまり、ローカルガバナンスの確立に重要なトータルな視点でのマネジメントが欠けているのではないか。様々なセクターと一緒に総合的な視点で地域のマネジメントを進めていくことが、これからの行政に求められると考える。